そこでは、津和のり子・ちあきなおみ・松尾和子の三人を取り上げていて、その三人の中で津和のり子だけは知らなかったので興味を持ったのだ。ネットで検索したり、中古レコードを探したりしたのだった。当時はまだYoutubeに津和のり子の歌は一つも載っていなかったし、ネットの中古市場もいまほど活発ではなかった。多分最初に入手したのは、挿入歌として「ほれてふられてブルース」が歌われている映画『地獄の天使 紅い爆音』のビデオで（2月3日という落札日が記されているが、多分2005年）、『曼珠沙華』『降りつむ』のＬＰ２枚を一緒にネットの中古ショップで入手できたのはそのあとで、その次に「ほれてふられてブルース」が収録されている『女番長ゲリラ〜やさぐれ歌謡最前線』のCD、これは初のCD音源ということで、発売を知ってすぐに買った（2006年5月発売）。その後もアルバム未収録のシングル盤を中心に中古品を買い揃えていった。
そうして、コレクションを続けている頃には、同世代の友人たちに話の流れ次第で「津和のり子」という歌手を知っているかと話題に持ち出していたのだが、知らないの答えが続いていた。そして何番目かに尋ねたＭ兄から思いがけない答えが返ってきたのだ。何言ってんだ、あの「のりちゃん」だよ、と。
「のりちゃん」というのは、時々通っていたＪＵＮのママから、自分はもう引退するので、その後を店の常連のこの「のりちゃん」が引き継ぐからと紹介されて以来の知り合いである。――常連だったということは、その前にも会っていたのかも知れないが、意識したのはその時が最初だった。のりちゃんが元歌手だとはその時に一緒だったＭ兄に聞いたが、そのことはあまり話題にしたがらなかったように思う。
まだ世紀が変わる前のことだ。
彼女が元歌手の片鱗を見せてくれたのは、ある歌の採譜を引き受けてくれた時だった。その時も彼女に採譜を頼むつもりだったのではない。彼女が採譜ができるとも思っていなかった。たまたま口伝てに歌い継いでいた歌を記録のために吹きこんだテープがあるんだという話から、誰かに採譜してもらいたいと思っているんだけど……という話の流れで、じゃあ私が採譜してあげようかと彼女から言い出したのだ。もちろん、渡りに舟でお願いした。次に店に顔を出したときには、「久しぶりで楽しかった」と言って、コード付きの譜面を渡してくれた。それが二〇〇一年だったか。
その後の探索で原譜を見つけることもできたので原譜にもとづくMIDIとともに、のりちゃん採譜のMIDIも作成して、二つのMIDIを「第七旅団の歌考」というサイトを作ってアップした（2002年）。
そこには謝辞として「唄ってくれた２人と２人の歌を採譜してくれたスナックＪのママさんにも感謝」と書いている。
そのころは、まだ「津和のり子」という歌手を知らなかったのだ。
「ここにあなたのファンがいるよ」、次にＭ兄とともにＪＵＮに行ったときに、Ｍ兄がからかい気味に彼女に告げてから、少し話がはずんだ。そしてその後に、彼女は私にこう釘を刺すのを忘れなかった。
「私がここに居ることは絶対に広めないでね。もしそうなったら私はここから消えるから」
その言い付けは固く守ってきたが、もうＪＵＮもその後身の「かゆや」も消えてしまった。
最近になって、1stアルバム『曼珠沙華』がＣＤとして復刻された※2のはうれしいニュースだった。草葉の陰できっと彼女も喜んでいることだろう。2ndアルバム『降りつむ』の復刻も一ファンとして期待したい。
最後に紹介しておきたいのは、彼女がカバーした『美しい昔』（1980年2月発売）である。
Khanh Lyの「美しい昔」は、いろんな歌手によってカバーされている。Wikipediaでは、カバーしている歌手を６人挙げているが※3、それらよりも早い津和のり子はなぜか抜けている。
おそらくこれがＣＤ化されることは期待できないだろう。
津和のり子「美しい昔」